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最高裁判所第三小法廷 昭和53年(オ)826号 判決 1979年3月20日

上告人

大慶建設工業株式会社

右代表者

佐々木慶烝

右訴訟代理人

能登要

今崎清和

被上告人

株式会社

サツポロ丸善

右代表者

田中隆

右訴訟代理人

新川晴美

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人能登要の上告理由について

仕事の目的物に瑕疵がある場合には、注文者は、瑕疵の修補が可能なときであつても、修補を請求することなく直ちに修補に代わる損害の賠償を請求することができるものと解すべく、これと同旨の見解を前提とする原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に基づいて原判決を論難するにすぎないものであつて、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(高辻正己 江里口清雄 服部高顯 環昌一 横井大三)

上告代理人能登要の上告理由

原判決がその理由において、上告人(第一審原告)(以下原告という)の被上告人(第一審被告)(以下被告という)に対する出来残代金二一七万一七四〇円相当の損害賠償債権を認定していることはその理由の示すとおりであり、正当である。これに対する被告の上告理由の論旨は理由がない。

しかし、原判決は被告の原告に対する五五万六〇〇〇円の損害賠償債権の成立を認定(原判決の理由四項2)したことは以下記載のとおり、釈明不行使、審理不尽の違法があると思料する。

第一点 原判決には釈明不行使、審理不尽の違法がある。

一、すなわち、原判決はその理由(四項2)において、本件建物の浄化槽及び排水設備工事に瑕疵があり、被告が昭和五〇年九月から一〇月頃にかけて訴外三王建設興産株式会社に請負わせて右瑕疵の改修工事をさせ、その代金として金五五万六〇〇〇円を支払つている旨認定したうえ、これを瑕疵の修補に代る損害賠償として原告に請求しうると判断し、被告の相殺抗弁を認容した。

二、瑕疵修補が可能な場合には、民法第六三四条一項の規定によるべきであり、直ちに同条二項を適用することは原則としてできないと解するのが相当である。但し、この場合でも請負人の担保責任を規定した民法第六三四条二項による請求をするためには、同条一項の「相当ノ期間ヲ定メテ其ノ瑕疵ノ修補ヲ請求」しても請負人が修補義務を履行しないときに、注文者は同条二項により修補に代えて損害賠償の請求をすることができることを定めたものと解するのが相当である。

同条二項は本来修補が不能であるか、または瑕疵が重要でなくその修補に過分の費用を要する場合に適用されるもので、瑕疵修補が可能な場合には同条一項による修補を請求することが信義則の要求するところである。瑕疵修補が可能な場合に同条二項が適用されるのは前記のように請負人の修補義務不履行の場合に限定するのが相当と思料する。

民法第六三四条で一項と二項を規定したのは、瑕疵の内容により適用区別したもので、瑕疵修補可能な場合も単純に選択的規定と理解すべきではない。然らざれば、無過失責任の本規定の適用について、請負人に苛酷な結果となる。また、同条一項の立法の趣旨を没却させることにもなるからである。また、請負契約の内容からみても、先づ請負人が目的物を完成させる義務があり、完成後においても先づ瑕疵修補義務があるとするのが当事者双方の合理的な意思であり、公平の理念にも合致する。

三、しかるに、被告は本件建物の浄化槽及び排水設備工事の瑕疵について、原告に対する「相当期間を定めた修補請求」をすることなく、一方的に三王建設興産株式会社に請負わせて改修工事をさせた。

原告が被告から相当期間を定めて瑕疵修補の請求を受けたのであれば、原告の下請をした配管業者に指図して原告の計算によらずして瑕疵の改修工事をさせることができたのである。下請配管業者も原告に対して瑕疵担保責任を負担していたからである。

四、被告は原告に対し、先づ「相当期間を定めて瑕疵修補請求」すべきであるのに、この請求をしないで原告に無断で第三者に修補させたのであるから、民法第六三四条二項を適用する要件を欠いているというべく、その損害額が五五万六〇〇〇円であるとしても、原告に対する請求権は発生しない。

また、原審が損害額の成立を認定するについて、被告が原告に対する「相当期間を定めて瑕疵修補の請求」をしたか否かについて釈明権を行使するなどして、充分なる審理を尽くすべきであるのに、これを看過して前記認定をしたことは釈明不行使、審理不尽の違法があるといわねばならない。

以上

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